先日、木造住宅に住む人の寿命が、コンクリート住居のそれよりも九歳も長い、と或学者が日本木材学会で発表しています。 ここに私は二 者の通湿性の差の他に、木の何かが影響しているのではと、今ひしひしとそれを感じています。
木彫の平櫛田中(でんちゅう)氏は、文化勲章を受け、文字通り斯界の最高峰だったのです。
が、なんとこの人は百七歳の高齢で(1979没)、 東京都民千何百万人の最高齢者としても君臨していたのです。
木彫で同氏に次ぎ同じく文化勲章を受けている沢田政広氏も、不詳ながら相当な高齢です。
かねてから木彫の巨匠と長寿の関係に関心をもっていた私ですが、更に住居と寿命の関係の調査結果を知るに至っては、ますます木に不思議な魔力があるのではとの思いが募るばかりです。
平櫛氏は材木屋に生まれ、育ち、生涯木に囲まれ、木に埋もれ、木を刻み続け、木の精霊を吸い続けての一生だったのです。
偶然にも、これを書いている今日十一月十九日、木版画の棟方志功氏の師匠の百二歳の死を夕刊が報じました。 その道に精進し名を成した人の中に、木彫のように体力をも駆使した人は、他にも陶芸・スポーツ・武芸・登山など幾らも有るはずですが、かかる長寿を聞きません。 動物は酸素を吸い炭酸ガスを吐き出す。
植物はその逆で生命を保ち、我々動物に恩恵を与えてくれる。 これも考え合わせ、思いを深めるほどに、木と長寿の因果関係に謎が深まるばかりです。
幸いなことに、木に囲まれ木を細工して暮らしている職業にある私は、かの巨匠に多少ともあやかれるかも、の気持ちで日々親愛の情で木に接しています |